株式価値評価 について
株式価値評価が必要となる状況や、用いられる評価手法、株価評価結果の取り扱い、また、株価評価レポートにかかる監査対応について、以下で説明しております。
1. 株式価値評価が必要となる場面
株式価値評価は、主に、会社又は事業を第三者へ譲渡する際の譲渡価格を検討するために行われます。
一般的な株式(又は事業)譲渡によるM&Aにおいては、譲渡価格をいくらにするか、あるいは、相手方の提示価格は妥当な水準かどうか、といったことを検討するために、多くの案件で、買手・売手双方がそれぞれ株式価値評価を実施します。
株式交換や株式移転、株式対価による合併といった組織再編の場合は、買手・売手双方の株式価値により交換等比率を算出しますが、この場合は、買手・売手双方がそれぞれ比率を評価したうえで、最終的な比率を決定します。
また、近年では、MBO案件や親子上場解消のためのTOBや株式交換等、上場会社において利益相反を伴う取引を行う際は、少数株主の利益保護のために、特別委員会が組成されることがありますが、その特別委員会においても、株式価値評価が必要となります。
その他、新株予約権を発行する際、行使価格を決定するために自社株式の評価を行なったり、IFRS適用会社であれば、IFRS9号「金融商品」に従い、保有する非上場株式の価値を会計処理のために評価することもあります。
※なお、上記のほか、相続税目的等、税務上の株価が必要となる状況もございますが、弊社では、税務上の株価算定は承っておりません。必要な場合は、対応可能な税理士事務所をご紹介します。
2. 株式価値評価の手法
株式価値評価の方法としては、各種手法がありますが、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、コスト・アプローチの3つのアプローチに分類されます。各手法の詳細な計算方法は割愛しますが、実務上は、以下の中から適切な手法を1つまたは複数採用して評価することになります。
分類 | 概要 | 特徴 | 主な評価手法 |
インカム・アプローチ | 評価対象会社(事業)から期待される将来のキャッシュ・フロー(CF)又は利益を、評価対象会社(事業)のリスクを織り込んだ割引率で現在価値に換算することにより評価する方法 | 期待将来CFや割引率が適正であれば、最も当該会社(事業)の価値を適切に表す。しかし、それらのCFや割引率の見積次第で結果が大きく変わり、また、主観・恣意性も入りやすい。 | DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法) |
マーケット・アプローチ | 市場において成立する価格を基に評価する手法。市場価格そのものや事業内容等が類似する上場企業の市場株価等の一定の倍率により、評価対象会社(事業)の価値を評価する。 | 市場又は第三者間価格に基づき評価するため、客観性に優れる。しかし、類似の企業や取引の選出に主観・恣意性が入りやすく、類似の企業があまりない場合等は適切な評価ができない。 | 市場株価法、類似会社比較法 |
コスト・アプローチ | 評価対象会社(事業)の貸借対照表上の純資産により評価する方法。時価純資産法又は簿価純資産法により評価するが、時価は再調達時価又は清算処分時価の概念がある。 | 評価が比較的簡易。しかし、会社(事業)の一時点の清算価値・売却価値を評価する方法であり、継続企業を前提とするインカムアプローチやマーケットアプローチとは前提が異なる。B/S上の主要な資産が不動産等である会社や、業績が低迷し回復が見込まれない会社等の評価には適合する場合がある。 | 時価純資産法、簿価純資産法 |
株式価値評価において、最も使用される方法は、インカム・アプローチのDCF法です。企業の価値を、その企業が今後生み出すキャッシュ・フローにより評価する方法であり、もっともその価値を体現している方法といえるでしょう。ただし、算定のためのインプットとなる事業計画や割引率が適切に設定されていることが前提となります。
また、マーケット・アプローチもよく使用される手法です。上場会社の評価であれば、市場株価法はほぼ必ず用いられますし、非上場会社の場合でも、類似会社比較法による評価が行われます。ただし、非上場会社の場合は、事業がニッチで類似企業がない場合や、シードやアーリーといった成長段階のスタートアップ企業で、類似する成長段階の企業がない場合、また、赤字見込で算定ができない(類似企業の倍率を乗じる対象の利益がマイナスであると算定不能)場合等、類似会社比較法が適用できない場合があります。
コスト・アプローチは、基本的には事業を継続する企業の評価とはなりませんので、清算が前提であるような場合を除き、参考として結果が併記されることがあるという程度です。ただし、評価方法としては単純ですので、非常に小規模な案件や専門家を介さないようなM&Aでは用いられることもあります。
また、正式な方法ではないものの、実務慣行上、用いられることのある方法として、「年買法」(又は「年倍法」とも)という方法があります(名称も正式なものではありません)。これは、純資産額に営業利益の2,3年分程度を加算して株式価値とする方法で、M&A仲介業者が主に小規模な案件において、この手法での価格を提案することがあります。しかし、この方法は、特に理論的な裏付けは一切ない方法であるため、算出された価格が妥当かどうか判断することはできないものとなります。この方法による価格で提案を受けた場合は、他の手法による算定も実施するなどして、価格の妥当性を検証することが望ましいと考えられます。
3. 株式価値評価結果の意味合い
上記の手法により算出された評価結果は、各種前提条件が変わると大きく結果が異なってしまいます。つまり、上記手法により算定された評価結果は、将来CFやリスク等について、そういう想定を置いたら価値はこうなる、というものです。
株式価値評価においては、算定する立場(売手、買手等)によって、現状認識や将来情報の見積り、固有のシナジー等、評価の前提へ織り込む情報が異なるため、各当事者が実施した株式価値評価結果が完全に一致することはほとんどありません。株式価値評価は、そういったことを踏まえて、慎重に行う必要があります。
また、会計基準上、「公正価値」という概念がありますが、会計基準上の「公正価値」は、市場参加者間の秩序ある取引において決定される取引価格であり、一般的な市場参加者が想定していない独自のシナジー効果や買収者が予定する施策の効果等は含まない価値です。株式価値評価により評価する価値は、必ずしもこの「公正価値」ではありません。
売手においては、買手によるシナジー等を織り込まない「公正価値」的な水準が、売却価格の下限となる(この価格以下なら自分で継続運営するか、他の買手を探す方が得)でしょうし、買手にとっては、自社とのシナジーや独自改革施策等を織り込んだベースの価値が取得価格の上限となる(この価格以上であれば、投資回収できず損となる)かと思います。株式価値評価結果を基に、実際の取引価格をいくらにするかは、交渉と経営判断により決定されるものとなります。
なお、利益相反性の高いMBO取引等においては、少数株主保護の観点が重視されますので、より客観性・第三者性のある株式価値評価が求められることとなります。
4. 監査対応について
M&Aの取引価格の妥当性を検証するために、「株式価値算定書」が会計監査の確認対象となることがあります。当該監査が、M&A成立後の決算のタイミングで実施されたりするので、忘れた頃にQAリストが送られてきたりしますが、弊社で回答すべき部分はご対応しますので、ご遠慮なくご連絡ください。
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